ドリームライフ

「デジタルと暮らす」美空間のつくり方

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「デジタルと暮らす」美空間のつくり方

 

お掃除ロボットから月面住宅
どんなにデジタル化が進んでも
ゆたかな暮らしの定義は変わらない
大切なのはタイムレスな“美”

 

今回のテーマは「デジタルと暮らす」。みなさんはデジタルと聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。テレビなどのオーディオ製品、キッチン家電、お掃除ロボットなど、数々のデジタル技術が私たちの生活を便利で快適なものにしてくれていることは間違いありません。それは50年後、100年後の住宅の未来にもつながるテーマでもあります。
 2016年、東京の森美術館で開催された展覧会『宇宙と芸術』で、建築家のノーマン・フォスター率いる「フォスター+パートナーズ」による月面住宅が注目を集めていました。これは、巨大な3Dプリンターを使い、月の砂によって住宅を創るというプロジェクトで、そのデザインへの注目だけでなく、地球からの運搬物を減らすことを可能にした自然の生物がつくるようなシステムそのものが注目されていました。月面移住もいよいよ現実のものになってきたのだと感じました。

 

デジタル×月面住宅

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発表された月面住宅は、巨大3Dプリンター「D-Shape」を使用して、月の砂でつくるため、建築資材を地球から月まで運ぶ必要がない。ロボットが操縦する3Dプリンターがドームの上に表土の層を重ね、防御用のシェルをつくり上げる。Foster + Partners(フォスター・アンド・パートナーズ)は、カリフォルニア州アップル新社屋・Apple Campus2などでも知られる。

月面住宅はまだ少し先のことですが、すでにデジタルは私たちの暮らしに欠かせないものとなっています。スマートフォンで外出先からエアコンや床暖房を作動させるシステムは週末や休暇に滞在する別荘には特に有効なシステムだと思います。照明、シャッター、セキュリティカメラ、電化製品など、すべてのデジタル機能を遠隔操作したり、スマートフォンで制御できたりする時代、AI(人工知能)も生活の中で利用されています。
 最近、お掃除ロボットを使う家庭が増えていますが、このお掃除ロボットは最も身近なAI家電といえるかもしれません。ロボットが動きやすいように、ソファやベッドなど、脚の高さを考慮して購入する人も増えています。そのほか、シェフのレシピ通りの料理をつくるロボットキッチンといったものも登場しています。

 

デジタル×リビングダイニング

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Y邸のリビングダイニング。デジタル機能を折り込みながら、心地良さを追求したインテリアデザイン。家具の下の少し空いたスペースがロボット掃除機の定位置。
そのほか、ダイニンングの家具の扉の中にダイニング用の小型テレビをビルドイン、腰高の家具の中にオーディオ機器を設置し、デジタル機能を隠した。

デジタル化に伴い解決しなければならない問題が実は電源と配線です。テレビやオーディオシステムなどは、無線で制御する方法も増えますが、それでもやはり電源は必要です。
たくさんの配線が雑多にむき出しになっている空間は美しくありません。住宅を設計する場合、電気関係の工事は初期に行います。ですので、設計の段階で緻密に計画を立てて、コードは壁裏や天井裏を通して隠すことになります。最近はスマートフォンの充電のため、充電器を仕込んだ引き出しをキッチンにつくること、寝室のベッドサイドに充電用の電源付きサイドテーブルを置くことなど、充電スペースのリクエストが増えたのは、デジタル化の影響です。

 

デジタル×寝室

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S邸の寝室。ベッドサイドの引き出しにスマートフォンなどの充電スペースを設置。

以前、機械的なものに囲まれる空間はストレスにつながるというお話をしましたが、生活に便利さや快適さをもたらしてくれるという点で不可欠となったそれらを、いかに上手に隠すかという工夫も心地よい暮らしには欠かせません。
 私が住宅のインテリアを考えるときにネックになるものの一つがテレビです。私はフォーカルウォールとして、和室の床の間のような壁面を決めて、それを中心にデザインを考えることが多いのですが、家族だんらんの空間の中心にテレビを設置したいというリクエストは少なくはないので、フォーカルウォールとテレビの大画面の関係を考えます。これはなかなか悩ましく、どんなにテレビが薄くなっても長方形の無機質な面であるテレビ中心のインテリアは美しいとはいえません。インテリアに自然に溶け込むように、テレビを見ていない時には扉や移動式の壁などで隠すなどデザインを工夫します。

 

鏡面仕上げをされているデジタルサイネージ

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テレビとオーディオシステムが収納されている例。写真は扉を開けている状態。テレビやスピーカーを組み込んだ家具をデザイン。

最近、もう一つの解決策として取り入れているのがスマートミラーです。鏡面仕上げをされているデジタルサイネージのことで、インターネットにつながるなどの機能が付加されているものもありますが、何よりテレビの画面がオフのときミラーになるのでインテリアが美しく、テレビとしての機能も充実していて、必要に応じて画面をオンにしたときだけ複数の画面を映す、などカスタマイズすることも可能です。

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リビングルームの中心にスマートミラーを配した例。スイッチをオンにするとテレビが映る。

 

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こちらのリビングの壁面にもスマートミラーを。テレビはミラーとして存在を隠しており、その前面に下りてくるスクリーンは天井に埋め込み存在を隠している。

デジタル化は私たちの生活を便利にしてくれます。でも、便利なことだけでは豊かな暮らしは完成しません。暮らしがデジタル化すればするほど考えるべきはタイムレスということではないでしょうか。デジタルなものは速いスピードで進化していくでしょう。それは、最先端のものはすぐに古いものになってしまうということでもあります。

人類の未来を描いた映画『2001年宇宙の旅』や『スターウォーズ』がいつ観ても古臭く感じられないばかりか常に魅力的なのは、未来的な空間が文化的な意匠に基づいていたり、登場人物たちがまとう衣装が歴史ある服飾に習ったものであったり、配された家具が完成度の高い名作家具だったり、それらに“美”が感じられるから。“美”を追求したものにはタイムレスな魅力があるのです。私たちは自然の一部なので、自然など普遍的で“美”を感じるものに心地よさを感じるのでしょう。
 4年に渡りさまざまな角度からインテリアのお話しをした「美空間の方程式」。最終回となり、私がお伝えしたいのは「ゆたかさとは自分らしさ」であること。そして最も大切なことは、“美しさ”があることです。デジタル時代の未来こそ、自分らしい「美空間」を実現して、心地よいゆたかな日々を重ねていただければと思います。




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