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小さな快適空間と住まいの関係

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快適で心地よい小さな空間の要はヒューマンスケールと空間の関係


小さな部屋というと、私は近代建築の巨匠、ル・コルビュジエが1952年、65歳のときに南仏に建てた「カップ・マルタンの休暇小屋」を思い浮かべます。

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カップ・マルタンの休暇小屋は、世界遺産に認定されたコルビュジエの建物の一つ。

数々の巨大プロジェクトを手掛けてきた建築家の、終の棲家にもなった家が8畳1Rの小さな家だったということがとても興味深いのです。折りたたみ式のテーブルやベンチ収納、壁と家具は同じ木材で素材と色彩を統一し、天井は自然を感じさせるグリーンやレッドの塗装で変化をつけるなど、最小限で快適な住空間のためのさまざまな工夫が見られます。この最少空間の基準になっているのは“ヒューマンスケール”。人間の体の大きさを尺度にした空間づくりです。コルビュジエは人体の寸法と黄金比から、建造物の基準寸法=モジュロールを生み出したことでも知られています。ちなみに、コルビュジエの身長は182cmでした。

日本では古来より、空間寸法の基準には畳が使われており「立って半畳、寝て1畳」といわれます。これはヒューマンスケールとも関係しています。広くて天井の高い部屋は気持ちがよいものですが、小さい空間が意外と落ち着く、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。たとえばその最たるは、日本の茶室。極小の空間で無限の宇宙を表した茶室には、体を小さくして入ることで空間を大きく感じさせるにじり口、光の取り入れ方など、さまざまな工夫が見られます。茶室から快適な小さい空間のヒントを多く学びます。
 大切なのは、人間のヒューマンスケールと空間の関係です。ただ広い空間があれば、ゆったりと安らげるということではなく、そこには、色彩や素材の、安らぎのための仕上げや機能的な家具など、工夫があるはずです。改めて、小さな部屋や空間の心地よさついて考えてみました。 

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1)マンションロフトの事例
ファッションデザイナーのコシノジュンコ邸。マンションの最上階という天井の高さを利用して空間を区切り、ロフトのある2層のクローゼットに。

 

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2)マンションロフトの事例〈ロフト階〉
ロフトの一角には着物の収納と着付けができる小部屋を。

 

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3)マンションロフトの事例〈ロフト下〉
ロフトの下は、キッチンに併設されたNOOKと呼ぶ小さなリビングダイニング。テーブルは棚の下に収納も可能。とても居心地がよく、ご夫妻はここで過ごすことが多いとか。

 

広い邸宅であっても、住まいの中に機能的で小さな空間をつくることで、より快適に過ごすこともできます。キッチンはその最たるもので、作業スペースの距離感や収納など、工夫の宝庫です。書斎もその一つで、必要な機能を集約させて、それを使いこなす楽しさがあります。実際、キッチンや書斎の必要な機能は多く、工夫を凝らしてデザインするのは楽しいものです。

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4)マンションキッチンの事例
家具として製作したキッチン。レールによるスライド式のダイニングテーブルがキッチン作業台を兼ね、ダイニングチェアは収納を兼ねたベンチに。限られた空間に家具を置かず、広く、有効に使うための工夫。

 

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5)和室の書院スペース事例
芦屋のM邸には、和室の一角に趣味の書道を楽しむための小さな書院スペースを。正面奥の、床の間の延長のような違い棚風の美しいスペースは机。下は掘りごたつのようになっておりラクに座れる。その上には、和紙の扉があり、書道道具を収納する棚が設けられている。

 

最近では、ワンルームマンションのインテリアデザインを手掛ける機会も増えました。その際に気を付けているポイントを挙げてみます。

まず、限られた空間ではいかに美しく整理されているかが要になるので、収納の工夫は不可欠。機能を兼ねる家具は有効です。また、本来の広さを視覚的に感じられるように視界を分断せず、できるだけ視線が抜けるようにします。行き止まりをつくらず回遊できるようにすることもポイントです。そして最後に、色彩や素材です。写真のマンションにはこの4つのポイントを取り入れました。

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6)ワンルームマンションの事例
広さは45平方mの1LDK。LDKと一体感のあるキッチン、右奥に引き戸で仕切れるベッドルーム。ベッドルームとバスルームをガラスで仕切り視線の抜けをつくり、全体を回遊動線に。空間や機能を兼ねることで限られた面積を広く感じさせる工夫。

便利で快適な現代の暮らしの中では、真の心地よさとは何かを見失ってしまいがちです。かつて、日本の住宅は小さな空間で快適に暮らす工夫に溢れていました。食卓を囲み家族で食事をした部屋は、食卓を畳んで収納すれば寝室になりましたし、階段下のスペースは収納に。家具だけでなく空間そのものが用途や機能を兼ねることで快適に暮らしていました。これは欧米にはない空間の捉え方です。

ヒューマンスケールを考えた小さい空間は、いわばその人の最小空間。少しの工夫をすることで、大きな空間では実現できない自分らしい快適な空間をつくることができると思います。




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